NSXエンジン下ろしメンテ作業その①
こんにちは!
今日はKSPファクトリーで行っているNSXのエンジン降ろしメンテナンス作業に関してどのような作業内容なのか? と言うお問い合わせが多いため作業の流れと内容を紹介するページを作りました。
かなりの長編なので分けて掲載します。まずはその①から・・興味あればどうぞ!^^
「10万キロでタイミングベルト交換」と言われるけれどベルトそのものは10万キロ程度で著しい老化は見られず、本当に整備が必要なのはカムシャフトを外さないと交換できないロストモーションスプリングやバルブクリアランスをキッチリと調整することパッキンやホース類、クーラントの流れるホース類の交換であることが分かると思います。
カムシャフトを外さないと交換できない部品やエンジン搭載状態では整備できない、あるいは作業が非常に困難である部分が多数有るため搭載状態でベルトのみの交換作業では整備の手が届かずトラブルの解決や予防にならない老化部分が多数有ります。
この整備記録を見ることで本当に必要で有効な整備とは何なのか、何故そうするのかを理解していただければと思います。
今回の整備車両は走行約10万キロの100型NA1・AT車。
リアメンバー、ミッション、エンジンのパワーユニットAssyとしてボディから降ろす整備であるためATでもMTでも作業内容は変わらない。
この車輌は新車時からワンオーナーで大事に扱われていたため走行距離の割には騒音も少なく程度良好でした。
車輌をリフトアップしてオイル&クーラントを抜くエンジンブロックのドレンにホースを繋ぎエキマニにクーラントがかからないよう排水し腹下のパイプ部のドレンから抜くことでほぼ全てのクーラントを抜くことが出来る。
ブレーキライン、ABSセンサーを切り離しリアナックルのスタビリンク兼ショックアブソーバー取り付けボルトを外してエンジンを降ろす準備をする
エアクリーナなど吸気側の部品や配管を取り外しスターターやアース関連の配線を切り離す。
エンジンからボディへ繋がっているラジエターホースとヒーターホースを取り外す。
エンジンハーネスをメインコンピュータから外しエンジンルーム側へ引き出す。
燃料配管やアース配線などを切り離す。
エンジンサポートフロントビームを取り外し、エアコンコンプレッサーをエンジンから取り外しボディ側に縛り付けておく。これは、エアコンガスを抜かずに作業を進めるため。
コンプレッサーを外したあとフロントエンジンマウントを外してしまうとエンジンAssyで降ろせないためエンジンマウントとフロントビームは再び取り付けておく。
エンジンが降りてからでは力が入りにくいためこの時点でクランクプーリーのセンターボルトを緩めておく
これにはプーリーを固定しておく専用工具(右側のレバー)が必須でプーリーが回転しないようにしておいてセンターナットを緩める。
NSXのクランクシャフトは90度V6で等間隔爆発させるため捻りの入った変則的なクランクで強大なトルクをかけるとネジリ方向に変形するおそれがあるためプーリー固定ボルトを緩めるトルクを加えるのはプーリーだけで済ませる。
フライホイル側を固定してクランクプーリーボルトを緩めるのは絶対NG。
このボルト締め付けトルクは25kg.mなんだけど、緩める際には 固着している車輌では100kg.m近いトルクが必要。こんな過大なトルクを絶対クランクシャフトにかけてはいけない。
ここで使っているのはボックスレンチに1.5メートルくらいのパイプを溶接した手作り工具。
パイプの先端に人がぶら下がっても緩まないくらい固着している事例が多い。
あらかじめリアハッチを外しておいてチェーンブロックをエンジンに取り付けてチェーンにテンションをかけておく。
リアメンバー取り付けボルトを取り外しボディをリフトで上げることでエンジンAssyとボディを分離する。
フロントヘッドがボディに干渉しやすいので注意。
宙吊り状態のエンジンAssyは不安定なのでチェーンブロックで持ち上げたまま古タイヤの上に着地させて安定させる。
以前「ホイルに傷が付きませんか?」と問い合わせがありましたがもちろんホイル無しで、エンジン乗せ用に使っている古タイヤです。。
以後一連の整備はこの状態で行うことになる。
ここまでで、エンジンAssyがボディから降りて整備の準備が完了する。
エンジンルームの汚れがひどい場合この時点でエンジンルーム内壁などをウェスで掃除し、整備中のエンジンに泥などが降ってこないようにする。
エンジン搭載状態で強引に作業を行うとそういった配慮が出来ないため、作業中カムカバー内部に泥やホコリが入り込む可能性が高くなる。
このあとは、ボディはリフトで目一杯上げた状態にして整備スペースを確保する。
整備作業開始
まずは降ろしたエンジンを観察する。
初期型NA1の場合走行距離5万キロ程度でヘッド周辺からオイル滲みが始まり10万キロ近辺でこの程度なら良好な部類。
走行距離が増えてエンジンを激しく回したあとあるいは高速走行後にオイルの焼ける臭いがするのは
ヘッドカバーから滲み出したオイルがエキマニや遮熱板に付着して焼けるためです。
発火などの重大なトラブルにはならないだろうけど、経年老化を感じさせる部分なのでこの機会に完治させて今後の10万キロの備えましょう。
下の写真でエアコンブラケットに流れた黒い物は後述するクランクアングルセンサーから溶け出した樹脂。
このエンジンは新車時から一度も開けていない状態だけどヘッドカバーからのオイル滲みがエキマニやエンジンマウント周辺まで回っている。だけど、まだ軽傷の部類。
フロントベルトカバー周辺はオイルによる汚れはないけれど、右後輪の巻き上げた泥水などがエアコンベルトなどで飛び散るため乾いた汚れがしつこく付着している。
これはオイルと違って落ちにくく掃除しにくい汚れ。
ホワイトガソリンと高圧エアの噴射でカムカバー周辺の汚れを洗い流しつつ吹き飛ばす。
これもカムカバーを開けた時や部品を外した時にエンジン内部に汚れが落ちて入り込むのを避けるため。
こういった配慮もエンジン搭載状態ではまず難しいでしょう。
プラグを全て抜いて、スターターにバッテリーを繋ぎコンプレッション計測。
6気筒全て計測し記録しておく。
整備後に再び計測するため、プラグは付けず必要に応じてプラグホールにキッチンペーパーなどを詰めておく。
補機類の取り外し これはVTECのカム切り替え機構へ油圧を送るスプールバルブと油圧センサー。
ここには高い油圧がかかっているためオイル滲みが発生しやすい。
スプールバルブは分解洗浄しパッキンとフィルターを交換して下準備しておく。
次回はヘッド側の整備編です。お楽しみに!^^