NSXパワステ修理レポート マニアックだよ!
こんにちは!
今日はNSXのパワステ修理に関するレポートを掲載したいと思います。
長文で専門的な内容なので予めご了承下さい!笑
では、どうぞ。。
NSX パワーステアリングギアボックス分解整備NSXのパワーステアリングは電動アシストタイプ。
経年老化に伴いアシスト機構にガタが大きくなって操舵に違和感を生じる事例が増えています。
しかし、このギアボックスは非分解ユニットであり、整備のための消耗部品や構成部品もメーカーから供給されていないためトラブルが起きた場合 Assy交換しかないのが現状でトラブル発生の際には高価なギアボックスの購入を迫られていました。
KSPではMT車にパワステを後付けする事も多く、パワステが標準搭載されたAT車の作業依頼も多いためこの整備の確立も重要と考えて早期からギアボックスの構造理解と修繕を模索していました。
現在では独自の修理方法確立と消耗部品の流用などで通常消耗レベルであればガタの改善が可能になっています。
また、ギアボックスのみを送っていただいての整備依頼が非常に増えたため
車載せずに動作検証できる治具を作ってこの作業に当たっています。
下図がNSXのパワステギアボックスの構造
モーターの回転をヘリカルギアでボールネジに伝達しボールネジナット(リサキュレーティングボール)で直動に変換してこれをラックシャフトに連結する事でパワーアシスト機構を構成している。
最もガタが発生するのはボールネジナットとラックシャフトの連結部です。
独自構造のギアボックスを的確に分解整備するため上のような動作検証治具を作って整備しています。
治具にはギアボックスを立てた状態で取り付けてラックシャフト下側をショックアブソーバーを繋いで直動に対しての負荷をかける。
ピニオンシャフトにステアリングを取り付けて回転するとショックアブソーバーをストロークさせる力が抵抗になりこれがハンドルの重さになる構造
この状態でコンピュータに通電するとギアボックスのトルクセンサーが正常ならパワーアシスト動作が行われるので操舵は軽くなるのが確認できてセンサーやモーターにエラーがあればオレンジのパワステ警告灯が点く様になっている。
制御側で問題がなければパワーアシスト状態で動作検証してモーターやギア、ボールネジなどからの異音をチェックしてOHして症状が改善が見込める事を確認してから分解整備を開始する事になります。
まずは先端ケースを取り外す事になるけれど、このギアボックスではケース組み立ての位置決め機構が無いのでボルトを緩めた時点でメーカーで適正に組まれた位置を見失うため調整不能な条件では絶対ボルトを緩めてはいけない。
上の写真がボールネジナットの直動をラックシャフトに伝えるジョイント部分。
パワーアシストで感じるガタツキはほとんどの場合このジョイント部分に発生している。
ラックをピニオンギアに押しつけている ラックガイドとスプリングラックガイドスクリューを取り外す。
トルクセンサーインターフェースユニットと一体になったピニオンギアユニットを取り外す。
ボールネジ先端とモーターシャフト先端に加工されたヘリカルギアが噛み合って駆動を伝えている構造だけど、この2軸の位置を動かしてバックラッシュ調整を行っている構造。
従って組み立て時にはギアのバックラッシュ調整が重要になります。
経年老化が激しい老化したグリスを除去して洗浄する。
ここで使われているグリスは一般のリチウム系MPと違っていて透明感がある寒天の様なグリスが充填されている。
ただし、経年変化で真っ黒で金属が溶け込んでいるためか激しい異臭を放っている。
同じグリスが入手できないためKSPでは比較的質感が近いRPのグリスを使っています。
ガタが出ているブッシュは取り外し産業用のブッシュに交換。
ブッシュの固定は2軸の位置関係の動きを考慮してある程度の動きを加味してリテーナーで
抑えて溶接
この部分には色々なノウハウがあり、逃げを上手く作らないと操舵の際にカタカタ音が出たり 動作が重くなったりしました。
操舵の際にキュルキュル音が出たりパワー系統のエラーが出る場合ブラシと接触しているモーターのコミュテーターが焼けている場合が多く接触の電気抵抗増大が原因。
ローターを旋盤で回転させながら紙ヤスリでコミュテーターを修正
表面状態が著しく悪ければ表面を切削して修正。
ほとんどの事例でブラシの消耗は軽微だけど 著しければ交換。
再利用する場合でも接触部を修正してやることで 異音は消えてくれる。
ちなみに、このモーターはかなりコンディション良好な事例。
再び治具上で組み立てていく。
非分解部分に関してメーカーから締め付けトルクの指定はないけれど素材と構造を考えて締め付けトルクを管理ステアリング機構は重要保安部品だから慎重に組み立てていく。
また、電動パワーステアリングは水気を嫌うのでアルコール系パーツクリーナーなどを使う際内部に水分が残らないように注意。
コンピュータを繋いで通電しパワーアシスト状態でステアリング操作しながら2軸のバックラッシュを調整する。これを上手く行わないとギア鳴りやガタが残る事になる。
これも重要なノウハウで新品製作時にはどの様な方法で組み立てていたのか考えて調整用の治具作ってパワーアシスト状態で調整する。
この方法なら車載確認をせずに動作の最終チェックが可能になります。
整備が完了したパワーステアリングギアボックス。
これでパワステの動作フィーリングはほぼ新車状態に戻ります。
両端のタイロッド取り付け部にはゴムブーツが付きますが、水を嫌う電動パワステにとってこのブーツは非常に重要。ギアボックス整備の際にはブーツを新品交換を推奨します。
動作中の連結部分のガタを撮影してみました。
http://ksp-eng.co.jp/tyiz/mpg/GearboxOH.wmv
このパワーステアリングの構造はモーターの回転をボールネジで直動に変えてラックシャフトの動作をアシストする方式ですが、ノーマルのブッシュが老化によって著しいガタを発生させているためアシスト力がラックに伝わる際に遅れが生じます。
これが、NSXのパワーステアリングでハンドルを回した際に アシストが若干遅れてカクッと感じる原因で、初期型NA1のパワステではかなりの割合でこの症状が出ていて違和感を感じているオーナーは多いです。
また、操舵系のガタに関しては車検整備で指摘される事もありディーラー様からの整備依頼が増え車輌の査定で大きなマイナスポイントになるためこれを修繕したいと中古車業者様からの整備依頼も増えました。
NSXのパワーステアリングは電動パワーステアリングとしては極めて初期の設計でありその構造故に独特のトラブルを招いていますが、やはり、パワーアシストの恩恵は大きく年々高性能になるタイヤのグリップに比例してステアリング操作は重くなっているので今後もパワーステアリングの需要は多々あると思います。
現在
ガタの最も大きな原因であるブッシュ部分に関してはほぼ対処法を確立しましたがラックシャフトが極端に摩耗してしまった場合には対処不能となる場合もありました。
この場合ステアリングセンター付近で回転方向の遊びが大きく左右どちらかへ大きくステアするとガタが減ってくるという症状になります。
原因はグリスの老化によるラックシャフトとラックガイドの接触摩耗でラックシャフトが磨り減ってしまった場合には構成部品が販売されていないため修理が不能になります。
初期型NA1は20年前のグリスで潤滑している事になり操舵のガタツキを体感したならグリスの老化によってシャフトが決定的に摩耗する前に分解整備してしまった方が良いかと思われます。
現状でパワーステアリングの整備技術としてはほぼ完成領域に来ましたがまだ、消耗部品の再生などで未知の部分が残っていて将来 どのようなトラブルが起きるか分からないので今後もステアリングギアボックスの再生技術の蓄積を行っていきたいと思っています。