NSXエンジン下ろしメンテ作業その④
こんにちは!
今日もNSXエンジン下ろしメンテ作業の続きを掲載します。
ではどうぞ・・・
バルブクリアランス調整
油圧自動調整機構を持たないNSXではバルブクリアランス調整はこの機会にしかできない重要な作業。調整には右の2本の工具がSST(専用工具)としてホンダから販売されている。
ボックスレンチの中にマイナスドライバーを入れて回せる構造。
真ん中にあるのは使い込まれたスキマ調整用シックネスゲージ
バルブクリアランスを適正に調整することは吸排気のバルク開閉タイミングに影響するため事前のコンプレッションチェックで各シリンダー間で圧縮圧力に差があってもこの作業で改善する場合が多い。
また、当然ながら経年老化で広がっているクリアランスを適正値にすることでヘッドからのメカノイズは著しく減少して静かになる。
ロッカーアームの調整ネジロックナットをSSTで緩めて、シックネスゲージをカムシャフトとロッカーアームに差し込んだ状態でセンターのマイナスネジを回しクリアランスを適正値にする。
ロックナットをスパナで締めると若干クリアランスが変わるので締め付け時の変化を考慮して何度も調整しつつベストに追い込む。
ロックナットをトルクレンチで指定トルクで締める。
この時点でまたクリアランスが変わることがあるのでもう一度シックネスゲージで確認する。
24バルブ全てを調整しクランクシャフトにレバーを掛けてカムを回しながら再度全てのポジションのクリアランスをを確認する。
この作業を完璧に行うためには数時間かかる。
これも、このレベルの慎重さを求めるとエンジン搭載状態で行うのはほぼ不可能
まず、リアバンクの作業でトルクレンチが振り回せない。
そして新品のタイミングベルトを絶対汚してはいけない。
洗浄したベルトカバーの裏側に新品ゴムパッキンを入れてエンジンに取り付けていく。
ウォーターポンプカバーはポンプと共に新品にする。
ヘッドカバーも新品パッキンを入れてエンジンに取り付ける。
パッキンがはみ出ずに確実にはまっていることを確認しヘッドカバーのナットを全て規定トルクで締める。
取り付け時には要所要所液体ガスケットを併用する。
オイルクーラーを取り付けて新品のクーラント配管類を取り付ける。
オイルレベルゲージ、エアコンコンプレッサーブラケット、エアコンベルトテンショナーなどを取り付ける。
ヘッドにスプールバルブを取り付けここはゴムシールのみが原則だけど完全に脱脂して慎重に液体ガスケットを併用した方が長期間オイル滲みを避けることが出来る。
ただし、万一剥離したシールがオイル通路へ流れ出すとVTEC機構にトラブルを起こす可能性があるため使うなら極めて慎重に。
新品のクランクプーリーに交換。
このプーリーは破損事例が多いため交換推奨部品にしている。
AT用とMT用でセンターの六角穴が異なるため専用工具もAT用とMT用で分かれている。
このボルトの締め付けトルクは25㎏・m。 外す時ほどではないけれど大きなトルクをかけるので、クランクシャフトを守るため必ず専用工具でプーリーを固定してナットを締める。
下の写真はMT車の例だけど、クランクプーリーには回り止め用の六角穴がありここに専用工具を入れて回り止めにする。
そして、工具の中心穴にボックスレンチを入れてセンターナットを締める。
こうすることで、ボルトの締め付けトルクがプーリーで完結するためクランクシャフトが捻られることがない。
コンプレッション計測&プラグ取り付け
ここまで来たら分解前と同様に スターターにバッテリーを繋いでエンジンの圧縮圧力を計測する。
ほとんどの場合 各シリンダー間でバラついていた圧縮圧力は均等に近くなる。
これは、バルブクリアランスの適正化によるもの。
圧縮を確認し、問題なければ新品のプラグを取り付ける。
プラグは純正のPFR6G-11を使用。
サーモスタットを新品交換する。これもエンジン降ろしメンテナンスでは必須交換部品。
過去にオーバーヒート気味を経験したエンジンでは サーモスタットが開いたままになっている事例は多い。
エンジンからボディへ繋がるクーラント配管
スロットルなどに繋がる全てのクーラント配管を新品交換する。
これもエンジン降ろしメンテナンスでは必須交換部品。
エンジンマウント点検
NSXのエンジンマウントは前後左右で4個。
AT用とMT用では部品は異なる左右マウントで重量を受けて、前後マウントで加減速のトラクションを受ける。エンジン降ろしメンテナンスではチェックは行うけど、オーナーからの依頼あるいは現物を確認して要交換と判断すればマウントも交換。
これは右側マウント結局4個のマウント全て亀裂が入っていたため全て交換した。
長距離走ったNSXでエンジンマウントの老化はゴムが完全に切れてセンターのアルミシャフトが抜けてしまうくらいボロボロの場合もあれば、この車輌のようにゴム表面に多数のヒビが入っている程度の場合まで様々。
新品交換するとアイドリングなどでボディへ伝わる微振動が減って新車時のフィーリングに近づいていく。
一連の整備が終わりコイルやベルト補機類を全て取り付けてエンジン搭載準備が完了する。
降ろした時と逆の手順でボディにエンジンを搭載する。
タイヤをどけてジャッキで支えながらチェーンブロックで吊り上げてボディをリフトで降ろしていく。
無事にエンジンがボディに収まってメンバー&マウント類のボルトを締めて搭載完了
フロントビームを外してエアコンコンプレッサーを取り付ける。
降ろした時の逆の手順でエンジンハーネスを室内に入れてメインコンピュータと繋ぐ。
オイルパンパッキン交換
ここで最後のエンジン側整備作業オイルパンパッキン交換を行う。
カム周辺の清掃に使ったパーツクリーナーなどがオイルと共にオイルパンに降りているので老化したパッキンの交換作業をしつつ内部を洗浄する。
フロントビームを外し、エキマニのフロントバンクを外してオイルパンを取り外す。
C30A&C32Bではオイルパンとシリンダーブロックの間にゴムパッキンを使っているためこれの老化や変形でオイル滲みを起こすことが非常に多い。
また、写真のようにオイルパンの取り付け面には突起があってこれがゴムパッキンの穴に入る構造になっているためオイルパン取り付けボルトを締めすぎると突起が潰れてしまうため適正トルクで締めたとしてもパッキン変形からオイル滲みが止まらずさらにはゴムのパッキンが切れたり、オイルパンの取り付け面が変形してしまうので要注意。
こうなるとオイルパンの交換しか改善方法はない。
この車輌では新品のオイルパンに交換した。
普通のクルマでは滅多にないオイルパン交換だけど、NSXではかなり高頻度で行っている。
過去の作業で締めすぎていると ほとんどの場合はパッキン交換してもオイル滲みが止まらない。
締め付けはトルクレンチを使って、パッキンが潰れずオイルパンが変形せず、ボルトが緩まずの適正値を考えて均等に締める。
オイル滲みが持病のNSXだけど、取り付け面を完全脱脂して液体ガスケットを併用してオイルパンを組むと、数万キロ走行してもオイルが滲まない状態が維持できる。
だけど、エンジンを新組みしたときのようにブロックを逆さまにして完全脱脂状態でオイルパンを取り付ける事は出来ないから、今回のような作業方法では、整備後 走行距離を重ねるに従ってどうしても経年変化でパッキン隙間からオイルが滲みやすい。
これを出来る限り抑えるため慎重にパッキン交換作業を行っていく。
また、オイル交換頻度が多い車輌ではオイルパンのドレンネジが荒れていたり、座面が変形している場合も多くこの際 オイルパンを新品にしてしまおうと言うオーナーは多い。
エキマニ、フロントメンバーを組み立てて排気系を取り付けてエアクリーナーなど吸気系を組み立てて、新品エレメントを着けてエンジンオイルを規定量入れてエンジン側の作業はおおむね完了となる。
ラジエター&ヒーターホース交換
エンジン降ろしメンテナンス作業ではクーラントが流れる殆どのホースを新品交換することを標準作業に入れています。
NSXで破損の頻度が最も高いのは、エンジンルームでエンジンとボディを繋いでいる高温側ラジエターホース。これは、走行距離5万キロ程度で破裂する事例が多数ある。
次が、ボディ下に3本並んでいるホースの高温側 これは12万キロ程度で破裂事例が多い。
ヒーターホースを含めて全て新品交換。
フロント ラジエター高温側ホース
これはエンジンオイルクーラーへのクーラントホース
経年老化で膨潤してブヨブヨ・・
エンジンルームのファンはオーナーのリクエストがあれば残すけれど、殆どの場合 この作業の際に撤去してしまう。元通り取り付ける場合には分解掃除して再取り付け。
しかし、このファンはNA1の130型以降になって廃止されていること SやRでは付いていない事を考えても気温の高い輸出先への対応か、初期型故に考えすぎで取り付けられたモノだと思われる。
走行中に関しては ファンが無い方がエンジンルームへの通風は良いだろうから殆どの場合は撤去してしまう。 取り外した事による電気的エラーなどは発生しない。
ファンを外すとフェンダー内部に向かってポッカリと穴が開く130型以降はこんな感じになっている。
このあとクーラントを入れてエンジンを始動。
冷却水経路のエア抜きオイル滲みなど問題ないことを確認して一連の作業は終了になる。
写真を撮っていなかったので紹介していない整備ポイントや紹介していないノウハウ部分の作業も多数あります。
作業開始から所要時間は通常で4~5日ほど。追加作業や部品手配が重なった場合はもう少しかかる。急げば時間短縮が可能な作業だけど、このメンテナンス作業ばかりは、時間よりも内容と結果を優先しているため急がないことを基本としている。
費用は基本工賃でおよそ25万円 基本使用の部品代が20万円ほど。
もちろんエンジン脱着工賃も含みます。
作業内容を考えると非常にリーズナブルだと思います。
ロストモーションスプリングとバルブクリアランスの適正値調整でシリンダーヘッドからのメカノイズは著しく減少して静かになる。各シリンダーのコンディションが揃うのでアイドリング振動が減少する。
オイルの焦げる臭いが消える。
この整備を行ったオーナーからは実に満足度の高い作業だったと言われます。
NSXのエンジン下ろしメンテ作業情報は以上で終了です。
何かの参考になれば幸いです。^^