360モデナ エンジン製作記
事の始まりは・・
2009年11月25日 KSP主催の筑波1000走行会で
日頃乗る機会が無いであろうフェラーリのレースカーに
お客さんを乗せて体験同乗会を行ったところ あまりの爆音に黒旗でオフィシャルストップ。
そりゃ完全レーシングカーですからね。。FISCOなら問題ないんだけど筑波は騒音規制があるんです。
それではと、マフラーのテールにサイレンサー突っ込んで走らせて
よせばイイのにお客さんサービスで全開しちゃったもんだから
ヘッドガスケットが抜けて マフラーからクーラントがドバドバ出てきてご臨終。。
そんな無謀な事をするのはもちろんウチの社長。。
そんなわけで 実にカッコ悪い理由からエンジンチューンの道が開けていきました。

エンジンのダメージがどの程度なのか予測が難しかったけど
とりあえず、エンジン降ろして分解しない事には先に進まないので
年末の作業が一段落した2009年12月28日 エンジンを降ろしました。
ここでは KSPでレース参戦している
360モデナのエンジンチューン記録を紹介していきます。
後継モデルが出ている現在ですが、
市場に360モデナは多数存在していて
整備やチューニングの需要はまだまだこれから盛り上がってくると思われます。
KSPではこれに対応するため
様々なデータ収集とチューニングメニューの確立のため テストを行っています。
これは エンジントラブルを機に パワーチューンを行う事になった作業記録です。
モデナのエンジンは
フレームがあって下には降ろせないので 
ハッチを外してエンジンを上から抜く事になります。
チェーンブロックでも出来るんですが、この手の作業はエンジンクレーンの方が行いやすいので
今回はクレーンで降ろします。
ちなみに、奥に写っている360GTはターボチューンを行っているところ。
無事に走っていた頃の勇姿! なべっちさん撮影
ちなみに左の写真は
以前お客さんのモデナのエンジンを降ろしたところ。
この時は ミッションごとチェーンブロックで吊り上げてみたんだけど、
この方法は重くて大変。。
なので、今回は クラッチ交換の要領で まずミッションを降ろして
次にエンジンを降ろす方法にしました。
エンジンルームの補機類を外し
ミッションを降ろしてエンジンをクレーンで降ろし
エンジンスタンドに載せて 年末の作業はおしまいにしました。

エンジンルームの中であれだけ存在感を放っていた
ハイパワーV8エンジンも
エキマニなどの補機を外し、スタンドに固定すると
意外なくらいコンパクトなんですよね。


そんなわけで
エンジンはスタンドに載って
ボディは自宅に持ち帰ったので一段落。
そんな状態で2010年の新年を迎えました。
年が明けて KSPファクトリーは
NSXをはじめ 多数のお客さんの作業依頼に追われて
なかなかモデナのエンジンに手が付けられない日々が過ぎました。
そんなある日
昨年の「インポートカーショー」で知り合った 戸田レーシングの営業さんから
「モデナのエンジンパーツ開発に関して協力してくれないか」と相談がありました。

なんとも絶好のタイミング。
せっかくフェラーリのエンジン開けて、ただ治すだけじゃ勿体ないな・・と思いつつも
モデナのエンジンチューニングパーツなんて存在していないのが現状ですからね。
インポートカーショーで戸田レーシングは
F355用の排気量アップのチューニングパーツを紹介していたところで
KSPもフェラーリブランドのM-Tecnologiaで355.360.430を出展していたので
これをきっかけに昨年のインポートカーショーで知り合った次第でした。

フェラーリチューニングに関しては
海外から戸田レーシングに
360モデナのパーツは無いのか?という声が出ていて
需要はありそうだから作ってみたいけど
そんな挑戦的なメニューの人柱になってくれる一般ユーザーは見つけるのが大変だし、
もし、大きな障害が起きて未完成になったとしたら大問題になってしまう。

その点 何しろウチのモデナはすでに壊れてますからね。
エンジンも降りちゃってるし。。
また、
戸田レーシングはエンジン設計と製作を行ったとして
エンジンベンチで回して慣らしや出力計測までは出来るけど、
実際車輌に積んだ場合 現車のコンピュータでの制御が問題になる事
制御の大幅変更をした場合
パドルシフトの制御との兼ね合いで更なる問題が出る事が予想されたので
試作エンジンに関して
ベンチテストまでは戸田レーシング
現車に搭載後 V・Proを使った制御&セッティングに関してはKSPで行うという
コラボの企画になりました。
完成後は
当然ながらこのモデナでレース参戦してサーキットを走り回り
430をストレートで抜けるような痛快なチューニングカーに仕立ててみたいですね。
サーキットにおける限界性能テストの後
排気量アップから得られる余裕のトルクは
一般道の走行でも大きな魅力であるため
通常エンジンOHからエンジンチューンまで 幅広く対応できるよう
チューニングメニューを作っていきたいと思います。


私は今回のプロジェクトに直接作業者として手を出してはいませんが、
KSP側の技術屋として
友人のように対応していただける戸田レーシングの担当さんと打ち合わせをしつつ
KSPのメカニック達との間に入る担当者として
私目線の一人称形式でこの記録をすすめていこうと思います。

おそらくは1年くらいに及ぶ長期計画になると思いますが
完成が楽しみな一台です。
エンジン降ろし
そんなわけで
エンジン製作の話が進み、
一度戸田レーシングの方がKSPに来てくれて打ち合わせして
およそのチューニング内容を決めたところで
実際 どの程度の破損状況なのか
内部は355とどの程度異なるのか
エンジンを開けて検証してみようという事になり
エンジンを戸田レーシングへ運ぶ事になりました。

戸田レーシングは岡山県
気軽に運ぶ距離じゃないから 木枠梱包で送るのかと考えていたら
戸田レーシングの担当さんが、「引き取りに行きますよ!」とのことで

2010年4月18日
岡山ナンバーのハイエースのバンで
モデナのエンジンを引き取りに来てくれました。
これは申し訳なかったです。。でも助かりました。。
エンジンは戸田レーシングへ!
エンジン状況確認と打ち合わせのため戸田レーシングへ
4月の終わり頃
戸田レーシングさんから電話があって
「エンジンがバラバラになったので見に来ないか?」とのこと。
そりゃもう是非に。。

というわけで
ちょうど関西方面の業者さんに挨拶回りしてみたかったし
戸田レーシングを見に行ってみたかったので
連休明けの5月17日から岡山に向かってみました。
通常修理か? チューニングか?
戸田レーシングは
倉敷の町から20キロほど離れたところにあります。
辺りは畑が広がる牧歌的なところで
何故ここに最新のレーシングファクトリーが? と思えるような環境。

しかし、一歩社屋に足を踏み入れれば
そこはもう、機密を扱う厳重管理の「企業」
スタッフが持つIDカードを翳すとドアのロックが開くような厳重さ。

長い廊下の両側にドアがたくさんあって
そんなドアのひとつを開けて中に入ると
10畳くらいある真っ白な広い部屋の中で モデナのエンジンがバラされていた。
この部屋にはこのエンジンだけしか存在していないから
各ドアの向こうの部屋では 様々な秘密作業を行っているんだろうか。。
屋内は
とてもじゃないけど写真を撮って良い雰囲気じゃないので
エンジン関連だけ撮影してきました。
これが360モデナのエンジン1機分 部品一式
エンジンには封印があったそうで
これは切らないとエンジンがバラせないから外しました。
とのこと。
後にウチの社長に聞いたところ
「ああ、チャレンジカーだからな
 エンジンを開けられないように
 レギュレーションで封印があるんだ」
とのこと。
なるほどね 普通のモデナには無いワケか

もちろん レギュレーションとは
海外で行われているチャレンジカーのワンメイクレースでの話し。
当然ながら チューニングカーにレギュレーションは無い。
クランクシャフト、コネクティングロッド、メタルなど 目視では損傷は全く見られない。
シリンダーブロック
シリンダー壁面などもコンディション良好

レースで酷使している割には
何も問題は起きていない。
排気バルブの色もスゴイけど
吸気バルブは金色に焼けていてカーボンが殆ど堆積していない。
かなりの高温で動作していた結果でしょう。
物理的に問題は起きていないし
この高価なバルブを40本も交換すると恐ろしい費用がかかりそうなので再利用します。
ピストンも
燃焼室側にカーボンの堆積が殆ど無くて レースでの使用を物語っている。
真ん中のヘッドが白いピストンが
今回トラブルを起こした左バンクフロント側のピストン。
燃焼室にクーラントが入ってきたので温度差でスチーム洗浄?されたんだろうか
ピストンは新設計して交換するので これらは使わない。 最後に記念品としてどこかに飾っておこうか。
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これが
今回のトラブルポイント ガスケット抜け。
マフラーにインナーサイレンサーを入れて全開爆走すると 排気が抜けていかないのでエンジンが高温になり
ガスケットが抜けるのを実証してしまいました。。
しかし、ガスケットが抜けているのは吸気バルブ側ですね。燃焼室内でナニが起きていたんだろう?

それにしても
このガスケットは形状も素材も今風ではない。
戸田の方も 「まるで2T−Gの純正みたいなガスケットですね・・」とのこと。
ヘッドガスケットは
ピストンのボアに合わせて新設計したメタルガスケットを作って使う事になります。
そんなわけで、シリンダーヘッドは問題なし。
ついでなので
トラブルは起こしてない他のエンジンパーツも見ていく。 
それにしてもスチーム洗浄された一番右の燃焼室が可笑しい。。
可変バルタイ機構は 何故か排気側だけ。
吸気側にも仕込める構造にはなっているんだけど採用されなかったみたいです。
これは、ドライサンプのオイルポンプ
エンジンからオイルを集めてタンクへ送るスカベンジングポンプ2機と
オイルタンクからオイルを吸入してエンジンへ油圧を送るエンジンオイルポンプ1機が組み合わされている。
この造りはまるでレーシングエンジン。
ちなみに
ピストンはマーレ(ドイツ) チタン製のコネクティングロッドはパンクル(オーストリア)
どちらも世界の一級品。要不要ではなく様々な部分で高級部品がおごられている。
フェラーリも 360まではこの様なレーシングエンジンの造りだったそうで
430からは合理的なレクサス的造りになったとか。
チタン製コンロッドはこのまま使うけれど、
ピストンはボアと圧縮比を考慮して戸田レーシングで製作します。
クランクシャフトもストロークを上げて排気量を稼ぐため製作
カムシャフトも圧縮比を考慮して作用角を変更しハイカムを作ります。

他にも
ガスケットの金型を起こしたり
クランクシャフトとシリンダーのメタルを作ったり
作らなければならない部品は本当に多数になります。
特に
クランクのメタルに関しては
ブロックの寸法誤差が大きい割に純正メタルの種類が無かったり
国産車ではあり得ないような問題が生じているようです。

単に純正に戻すオーバーホールではなく
レースエンジンレベルでの精度と耐久性を求めて作業は進んでいきます。
この辺は非常に苦労しそうな事柄が多数ですけど
任せているのが戸田レーシングですからね。
そうは言っても何とかしてくれるだろうとお任せしています。


平行してKSP側では
エンジン完成までに制御面の問題をクリアするべく
お客さんの360を借りて
V・Proの試作ハーネスを作ってHKSと共同で360モデナにV・Proを使えるように
基本ソフトウェアを仕立てていきます。

次に戸田レーシングを訪ねるのは
基本部品が完成した頃
そして組み立て
最後にエンジンベンチでテスト その際はMOTECで制御を行い
エンジン完成後 エンジンはKSPに戻り車輌へ搭載されて
V・Proで制御を行ってサーキットで実走行 と言う事になります。

さて、完成はいつ頃だろうか。。     2010.05.24